8日 学パロ(Farbuer)
Novel
「遅刻遅刻〜!?」
わたしノイレ・イストリア! 今日から中学生! 入学式に遅刻しそうで大ピンチ!
大好きなイチゴジャムを塗りたくったパンを咥えて、大急ぎで走る。思考も視界もぐるぐるで、がむしゃらに足を動かしていたせいか曲がり角から現れる人影に気付けなかった。
「きゃっ」
「悪い! 大丈夫か?」
ぶつかった相手はその衝撃をものともせずに、倒れそうになったわたしを引き止めてくれた。恐る恐る目を開くと、わたしと同じ金の髪に深緑の瞳がとても綺麗な男の子が心配そうに見つめていた。
「ケガしてないか?」
「あ、うん。ありがとう……こっちこそぶつかってごめんなさい」
同じ制服だし、彼も新入生なのかな? もしかしたら一緒に登校できないだろうかと、この時のわたしはいつになく積極的だった。彼に勇気を振り絞って話しかけようとした、その時。
「あ、あの——ぴっ!?」
ヌッと、彼の後ろから大きな男の人が現れる。私を見下すその視線は冷たく鋭い氷柱のようで——殺されると、本能が告げている。男の赤い髪と金色の瞳に見覚えがあるような気がしないでもないが、今はただただ恐怖に怯えることしか出来ない。
しかしそれは恐ろしく長い一瞬だった。睨み付けていた男はわたしの存在などいないかのように男の子に話しかける。
「……アルバート、早く行くぞ。私も遅れるわけにはいかない」
「オレはともかく、オヤジの遅刻はヤバいもんな!」
じゃあなと手を振り走り出した彼の背中をわたしはぼーっと眺めていた。優しい子だったなあ。
人見知りで友達もいなかったわたしは、中学校では友達を作りたいと願っていた。あの男の子ならもしかしたら……なんて、そんな希望で胸がビックリするくらい高鳴っていた。
「……きっと学校で会えるよねっ」
わたしも急がないと! 学校に向かって再び走りだす。
彼とその養父との再会まであと一時間。