7日 食欲の秋(マリアとマリヤ)

 

Novel

 放課後。マリヤと待ち合わせている公園に向かうと、そこには既にマリヤの姿があった。
「よひの」
 もぐもぐ。彼女の右手にはさつまいも、左腕には紙袋があった。
「食べ終わってからにしろ」
「んぐ……由乃もいる?」
 差し出されたのは紙で包まれた芋らしきもの。受け取ると心地よい温かさが伝わる。
「ありがと……それにしてもなんでこんなに沢山買ったんだ?」
「すごい安かったから」
 安かったからといって買う量ではない。紙袋の中を覗くとまだ三、四本の芋が目に入る。一人で食べ切れると思ったのか、もしくは由乃と四暁へのお土産のつもりだったのだろうか。きっとマリヤは何もかんがえていないのだろう。そんな気がした。
「……今日は天ぷらにでもするか」
「あたしエビ食べたい」
「じゃあスーパー寄っていくか。お金は——」
 由乃が財布を取り出すよりも早く、マリヤは己の有名ブランドの長財布を自慢げに見せびらかす。また四暁が多すぎるおこづかいをあげたのだろう。思わずため息を吐く。マリヤに—自分の子供じゃないにせよ—保護者として多少なり金銭を渡すのはまだ理解が及ぶが、あの男は他人である由乃にすら大金を預けるような人間だ。それを拒否した結果、マリヤを介して金銭のやり取りが行われるようになったのだが。そんな彼の奇行にも若干慣れ始めている自分が恐ろしく感じる。人間として何かが欠けている四暁に無知なマリヤ。そんな二人に囲まれているからこそ、自分だけは常識人でいないといけないのに。
「由乃、早く買いに行こ!」
「食べ終わってからな」
 もぐもぐ。ほくほくと、由乃はさつまいもをほおばった。