6日 晩酌(Farbuer)
Novel
「セイヴィアちゃん、夜の予定は空いてる?」
仕事が終わり寮に帰ろうとしたセイヴィアを、上司であるアルカが呼び止める。頼られるのは悪いことではないが、最低限の関係でいたいと思うのは贅沢な考えだろうか。
「この後アイトとちょっと用事が……」
「アイトちゃんなら今フィリウスと口論で盛り上がってるわ」
だから、ボクたちも盛り上がらない? そう囁く彼女の手には一本のワインボトルがあった。晩酌の誘いだろう。セイヴィアは顔をしかめた。アイトもフィリウスもいないとなればきっと、目の前にいる上司と二人きりで飲むことになるのだろう。乗るにしろ断るにしろ気が重くなる。
「師匠にあまり飲まないように言われてまして……」
「あら意外と酒癖が悪いのかしら。セイヴィアちゃんはとっても良い子なのにね」
セイヴィアは笑って誤魔化す。自分や弟のアイト、そして師であるカーティスにとってここは敵の本拠地だ。酒に溺れてボロを出すなんてことが万が一にもあってはならない。そういった訓練をしたこともあるが、それでも酒を飲むときはいつも緊張してしまう。セイヴィアは未だに飲酒を純粋に楽しむことが出来ずにいる。
己の顔を覗き込むアルカを見つめる。彼女も敵だ。しかしこの組織の被害者でもある。年端もいかないような少女が、ワインボトルを抱いている。そのアンバランスさが彼女の身に起きた悲惨な出来事を物語っていた。
敵に同情だけはするなと師に教えられてきたが……セイヴィアはアルカのことを無下には出来なかった。
「一杯くらいなら……まあ」
アルカは少女のように笑った。