5日 雨の日(moc)

 

Novel

「雨、止みませんね」
「この調子だと夜まで続くかな」
 買い出しに行ったシオンとカラーを秋驟雨が襲う。幸運にも近くにあった店に避難できた二人だが、天気は更に深く澱んでいく。すぐに避難できたとはいえ、髪や服の裾は濡れているし、気温もこれから下がる一方だろう。暗くなる前にカラーだけでも帰らせたいと思うシオンだが雨避けなどはなく、ただ店前で立ち尽くすしかなかった。
「俺の上着だけじゃ心許ないしな……」
「そんなことしたらシオンが風邪を引いてしまいますよ」
「平気だよ。俺は人より丈夫だから」
「私も平気です。雨は嫌いじゃないので」
「太陽神に仕えてるのに?」
「神は雨空の向こうにいてくださいますから」
 それもそうだな、とシオンは淡白に呟く。彼は神を信じてはいない。彼が縋る存在があるとすればそれは——今も探し続けている、生き別れた妹だけだ。
 シオンはずっと走り続けている。生死さえわからない妹に出会うため。今もそう。ずっと心が急いている。人より丈夫な体を酷使して、休み方もわからなくなって……それを自分と出会う以前から繰り返しているのだと思うと、カラーは慄然とする。
 二人の間に沈黙が流れる。今この瞬間、五感を支配しているのは雨だ。身動きも取れないけれど、雨に包まれているような感覚は不思議と心地よかった。
 冷えた指先を擦り合わせて、息を吐く。
「……たまにはこうして、落ち着いた時間を過ごすことも大切だと思うんです」
 カラーは雨が好きではなかった。幼い頃は愛しい光が見えないことに、不安を感じることさえあったのだ。それでも今は……この雨が少しでも降り続いて欲しいと、少女は祈る。