29日 お月見(ぬら巫女)

 

Novel

 月が煌々と輝く、雲ひとつない十三夜を縁側から眺めていた。しかし僕がその言葉を知ったのはつい先刻の、夕方頃だった。
「お団子を食べるのは十五夜じゃないの?」
「現代じゃそうなのか? どっちも見てこそだろ」
 そしたら団子もたらふく食べられるしな。僕の横に座るぬらりひょんは軽快に笑う。今夜の彼はやけに騒がしかった。意気揚々と団子を買ってきたのも彼だし、妖怪はやっぱり月が出てると元気になるものなのだろうか? いやそれは狼男だっけ? 会ったことないからわからないけど。
「学校でそんなこと習ってないし……それにもうすぐハロウィンだし、みんなそっちに夢中だよ」
「はろうぃん」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞって、みんなで色んな仮装をして近くの家を回るんだ」
「百鬼夜行みたいなものか?」
「うーん違うんじゃないかなあ」
 僕は見たことがないからわからないけれど、百人がかりでお菓子を貰うのは大袈裟が過ぎるだろう。それに今の彼のオトモといえば河童、烏天狗、赤鬼しか見たことがない。あと九十六鬼も本当に実在するのだろうか。僕は自分の目で見たものしか信じないタイプなんだ。だから妖怪の存在は信じているけど、百鬼夜行という言葉は信じていないのは、そういうことだ。
 僕の曖昧は返事なんて、彼は全く意に介していない……というよりは、ただのマイペース気質なのだろう。彼はどこまでも自分本意な妖怪だった。いつも振り回されてるからわかる。
「んで何の仮装するんだ?」
「巫女さんの仮装〜」
「本業だろ」
「えへへ」
 僕は適当に笑って誤魔化した。実際同級生たちはみな、この服をコスプレのようなものだと思っているのだから。
 なんとなく気まずくなってしまった僕は顔を夜空へと逸らし、呟いた。
「……月、綺麗だね」
「——そうだな」