28日 天使(恋愛聖歌)
Novel
人間から見た天使という種は、それはとても美しいものであったらしい。彼らが滅んだ今となっては比較のしようもないが、人々はきっとこんな気持ちだったのだろう。
——歌を紡ぐアリアの姿は、天使の様に美しかった。
彼の詩の意味などわからないし、アリア本人も何も考えていない。それでも綺麗なものは綺麗だと、理解してしまう。わからされてしまうのだ。ただの音の響き如き、ただ頭に浮かんだ言葉を羅列したようなデタラメな詩が綺麗だと。そう感じてしまうのは、アリアが歌っているからに他ならない。彼以外の天使がそれを奏でれば、滑稽なピエロと嘲笑されるだけだろうに。
人も天使も、心を持つ生き物に変わりはない。遠く、手の届かない彼の独唱に、ただ耳を傾けるだけ。誰もそこへ行こうなど思わない。美麗な絵画を額縁に飾って見つめるように、ただ彼の美しさを眺めて悦に浸るのだ。
そんな凡俗共をくだらないと見下す天使もいた。彼の友であるセレナと、歌姫ベルスーズ。己だけは彼の理解者であると、そんな自惚れを抱いているのだ。
アリア自身はそんな大層なことを考える頭など持っていないというのに。
「——今日はベリーを、やまほど食べたいなあ」
それはとても伸びやかなファルセット。そしてアリアの独唱に終止符が打たれたのだった。