25日 前向きに(マリアとマリヤ)

 

Novel

 寒くないか? そう言って由乃はあたしにパーカーを買ってくれた。
 日曜日。由乃と買い物に行った時のことだった。秋風に体を震わせたあたしを見兼ねたのだろう。「家にコートならあるけど」「それはまだ早いだろ」そも、街を歩く学生たちも上着など羽織っていないだろうに。
 手ごろな服屋に入ったあたし達は軽く見回った末に、シンプルな赤いパーカーを購入した。手ごろな値段の—四暁に頼めば、桁二つくらい違うものでも買ってくれただろう—それをあたしは不思議と気に入っていた。買ったばかりのそれを羽織ったまま、帰るほどに。
 足取りの軽い私は由乃に問いかけた。「セーラー服にパーカーって変じゃない?」「別に校則で決まってるわけでもないだろ」由乃の顔はしまったと、己の失言を悟っていた。別にあたしは気にしていないのに。
 いや、少し前までは気になって気になって仕方がなかったことだけど、最近はそうでもない。あたしはどうしようもないクズで、出来損ないで、何の価値もない人間だと思い込んでいた。誰にも見向きもされない。いてもいなくてもいい存在。最近……特に由乃と会ってからは変わった。あたしと、あたしの環境が。四暁も家にいることが多くなって、一緒にご飯を食べたり、話す機会も増えた気がする。
 最近は、座学もそんなに辛いと感じなくなった。勉強とは追い詰められてやるものではないと、ようやく気付けた気がする。学校に行けなくなってから気付くなんて、おかしな話だ。
 そんな日々にどうしようもなく心が弾むのだ。今日だって、赤いパーカーを羽織って、公園の入り口で由乃を待っている。まだか、まだかと足を忙しなく動かしながら。
「まったく、寒い中待たせないでよ」
 せっかくだ、冬にはマフラーでも一緒に買いに行こう。