22日 普通の青年(moc)

ジニア・タイム

 

Novel

 口に砂が入った。ジニアはそれを吐き捨てるように手を口もとに寄せる。砂ぼこりが舞う中で倒れ伏す魔物を背に、シオンたち五人は腰の抜けた老人に歩み寄った。
「ありがとうございます旅の方……」
「いいえ。俺たちとしても襲われている方を見過ごすわけにはいきませんから」
「それにしても、生きているうちにエルフに会えるとはのう。そちらのお嬢さんはアポロ教の神官さんかね。小さいのにすごいことだ」
 ベルガモットの長い耳と、カラーの輝く白い衣服を見て察したのだろう。カラーは慣れた様子で謝辞を述べた。それに反してベルガモットは未だに老人のような反応に慣れていないらしい。素直に照れていた。
 ただそれだけではないのだろう。老人はシオンの容姿やライラックの首元も、好奇の目で見ていた。年の功だろうか、意外と博識な老人らしい。二人が人ではないことに気付いているようだった。目を細めた老人は——ジニアに囁いた。
「青年よ、肩身は狭くないのか?」
 その言葉を耳にしたジニアは、思わず笑みを受かべる。
 シオン、カラー、ベルガモット、ライラックそしてジニア……この五人の中ではジニアが唯一の“普通”だった。タイム家の長男として生まれ、人間の両親に愛されて育った自覚はある。家は少し貧しかったかもしれないが、衣食住に困るほどではなかったし、士官学校にだって通わせて貰えた。結局兵士にはならずにシオンとの旅を選んでしまったし、それに関しては家族に申し訳ない気持ちでいっぱいだが……それでも「親友なんでしょ」と背を押してくれた母のことが大好きだった。
 言葉は違ど、似たような質問を投げかけられることは多かった。シオンとの二人旅のときも、そこにベルガモットが増えたときも、カラーとライラックが加わったときは更に問われる頻度が増したような気がする。それでも彼の気持ちは変わらない。
 だからいつものように、ジニアは笑顔で答えた。
「サイッコーに楽しいぜ。じいさん」