20日 エルフの少女(moc)
Novel
ベルガモットは野を駆ける。満面の笑みを太陽に向けて、腕を伸ばして、思い切り深呼吸をすれば、自然が彼女を満たしてくれた。
「やっぱり落ち着くなあ……みんなも楽しい?」
彼女は手に抱く宝石に問いかける。正しくは、妖精石に宿る妖精たちに。
妖精は森の奥地にしか生息しておらず、森を離れるためには石に自身の力を閉じ込めなければならない。ただそれには第三者——エルフの存在が必要だ。妖精は古からの友であるエルフにしか己を預けたりなどしないから。そのため人間たちの間では、妖精をおとぎ話の存在と思っている者も多い。それも仕方無いだろう。妖精を認識するためには少なくとも百年は森で生活しなければならない。
そして二百年以上エルフの森で暮らしていたベルガモットは、妖精石が三度点滅しただけでハッキリと彼らの意思を感じ取っていた。
「そっかあ〜ごめんね。まさかこんなに長く旅するとは思わなくて」
元々ベルガモットが旅を始めたきっかけは、自分の師を探すためだった。それまでは森から出たこともなければ、人の営みも知らないような箱入りエルフ。それでもエルフの長たる師を探すのは弟子であり次代の長となるベルガモットしかいなかった。エルフは元々人と好んで交わろうとはしない。
——きっと使命を終え森に帰れば、シオンたちとはもう旅が出来ない。
わかっていたつもりだが、ベルガモットはその事実がとても悲しく悔しい。自分が生きた年月の一パーセントにも満たない時間を共にしただけの人たち。その僅かな瞬間はきっと、これからの人生の中でもっとも輝く日々なのだ。彼女はそう信じている。
「……もうちょっとだけ、旅したいって言ったら怒る?」
妖精石が四度光る。それを確認したベルガモットはありがと、と口付けた。