31日 ハロウィン(Farbuer)

 

Novel

「トリックオアトリート!」
 少年少女のくぐもった声が、宿の一室で響く。親切な宿のおばあさんから古い布や包帯を貰って、オバケの顔を描いただけの被り物がそこにはいた。
 特にノイレはハロウィンという祭をつい最近知ったものだから、少しでも楽しめればと、余った布と包帯で簡単な仮装もした。それはアルバートとセイヴィアなりの気遣いだった。こうして、三人でひっそりと催されたハロウィンが幕を開けたのだ。
 そして忘れてはいけない。悪戯か、お菓子か。セイヴィアはつい先程買いに行ったソレを二人に手渡した。
「はいクッキーとチョコ」
「やった!」「ありがとうセイヴィア!」
 アルバートとノイレは待ち切れないと言わんばかりに貰ったお菓子を頬張る。セイヴィアが食べかすに気をつける様に注意すれば、二人揃ってもくもくと食し始めた。その姿がハムスターのようで、セイヴィアは思わず頬を緩めてしまう。
「せっかくだし宿の人も驚かせてきたらどうだ?」
 きっとお菓子も貰えるだろうと、セイヴィアはチョコに手をつけ始めた二人に助言する。流石に外は人が多く、また警備の者も増員されているため組織に見つかる危険性がある。せっかくのハロウィンだ。水を刺すように言葉にはしないけれど、三人にとってそれは暗黙の了解として、常に意識していることだった。
 少し暗くなった部屋に、アルバートの明るい声が響く。彼はお菓子を食べ終わったノイレの手を引いて、部屋のドアを開いた。
「行こうぜノイレ。今日は腹いっぱいお菓子食べような!」
「う、うん……」
 手を繋いだ少年少女が、決して大きいとは言えない布の下に隠れる。当然、その距離は息がかかるほどに近い。籠もった空気が熱く感じるのは、ノイレの気のせいだろうか。
 まだ子供たちの夜は始まったばかりだ。