27日 眼鏡(マリアとマリヤ)

 

Novel

「由乃って家では眼鏡掛けてたりする?」
 似合いそうだけど。そう悪戯に笑うマリヤに、由乃は眉をひそめた。そしてため息を吐きながら、今まで何度も口にした返事をする。
「別に俺、そんな視力悪くないけど」
「本ばっか読んでるのに?」
「ちゃんと明るいところで読んで適度に休憩を取れば、そんなに疲れないよ」
 酷い偏見だと由乃は思う。事実として、若者の視力の低下が問題視されているらしいが……それでも裸眼で暮らしている人も、まだそれなりにいるだろう。これは由乃の憶測だが、自分が本を読んでいる時間と、クラスメイトがスマートフォンを見つめている時間はきっとそう変わらないはずだ。
「……これも偏見だけど、四暁先生の方がしてそうじゃないか?」
「四暁コンタクトとか面倒臭がりそうだしな」
 二人はソファで力無く横たわる四暁に目を向ける。彼の消えない隈から察するに、さぞ不健康な生活を送ってきたのだろうと。由乃はそんな不躾な考えを抱いていたが、視力は悪くないのだろうか。一緒に暮らしているマリヤの言葉には、それだけ説得力があった。由乃も常々思っていることではあるが。
 二人の視線を浴びて四暁は口を開く。彼もまた幾度と尋ねられてきたのだろうか。心底—普段とあまり変わらないように見える—面倒臭そうに答えた。
「さっき日向が言ってたのと大体同じだ。あとはまあ、ストレスが原因で視力が下がることもあるが……ストレスなんて久しく感じてないからな俺は」
「ああ……」
 由乃は今年の視力検査で、視力が少し下がっていたことを思い出した。一年前、叔父が亡くなって彼は塞ぎ込んでいた。視力の低下はあまり気にすることでもなかったが、アレが原因だとすると、嫌でも気にしてしまう。もう立ち直ったと思ったのに。
「視力を回復する方法って色々聞きますけど四暁先生って——」
「あー面倒臭いから詳しく知りたいなら書斎でそれっぽい本でも読んどいてくれ」
 四暁は—正確には四暁を支援している四ノ宮桐谷のものらしいが—タワーマンションの最上階の部屋を全て借りており、その内の一室を丸々書斎として使っている。何度か掃除のため入ったことはあるが、あの資料の山からそれを見つけ出すのは難しいだろう。
「……とりあえず、ブルーライトカットのやつでも買っておこうかな」
「ならあたしがフレーム選んであげる」