14日 腕の中(Farbuer)
Novel
物心がついた頃、というのだろうか。ある日、オヤジがあまりにも悲しそうな顔でオレを抱き上げていることに、アルバートは気付いてしまった。
「オヤジ、オヤジ。ケガでもしたか?」
「……いや、私は大丈夫だ」
オヤジは何も言わない。自分の背で彼がどんな表情をしているのか、理解は出来ても想像がつかなかった。だってオヤジは、オレの前ではいつも笑顔なんだ。危ないことをして怒ることもあるけれど、涙なんてみたことがない。だから彼が潸然と涙を流そうとも、嗚咽をあげようとも、その姿を見ることは出来なかった。
オレに力があれば、オヤジと正面から話し合えるのだろうか。オレが無力だから、オヤジは不安なのだろうか。
アルバートとカーティスは本当の親子ではない。名前—それもお互い本当の名ではない—くらいしか知らない間柄なのだ。それでもカーティスはアルバートにとって父であり、アルバートはカーティスの息子だった。そこに嘘はない。この歪な親子関係は夢でもなく現実なのだ。真実はわからないけれど。このまま胸のしこりが肥大していくとしても、それだけは変わらないもののはずだと、アルバートは信じている。
本当は全て聞いてしまいたい。どうしてオレを拾ってくれたのか、過去になにがあったのか、本名を呼んでみたいだとか……今にも口から溢れ出しそうになるほど、アルバートには知りたいことが山ほどあった。
それでもオレが何も言えないのは——オヤジがあまりにも強く、縋り付くように抱きしめるから。
「オレ、どこにもいかないから。ちゃんと家でまってるからな」
「……ああ」
より一層、つよく抱きしめられた。