4日 ハロウィン(恋愛聖歌)
Novel
「セレナ、トリックオアトリート〜」
「はあ?」
「人がいた時代には、今の時期お菓子がいっぱい貰えるハロウィンっていうお祭りがあったんだって」
ベルスーズがそう言ってたんだ。アリアがその名前を口にした途端、セレナの眉が歪む。人が絶えてからそれなりの年月が経つが、何故あの女——歌姫ベルスーズはそんなことを知っているのだろう。アリアやセレナが生まれるよりも前……当然あの女もまだ生まれてなどいないはずの時代のことを。ベルスーズの話が事実か空想かはわかりかねるが、相変わらず俗っぽい歌姫だとセレナは嘲笑した。
「お菓子か悪戯かって……脅しみたいなものじゃない。人間って悪趣味ね」
「ね〜みんな悪戯が嫌なのかお菓子いっぱいくれたんだ」
彼が抱える紙袋の中には小さく可愛らしいお菓子が詰め込まれていた。友人が少ないアリアにしては些か量が多い気がするのはセレナの気のせいではないだろう。しかも丁寧にラッピングされているものも見受けられる。みんなアリアに甘いんだから……なんて呆れているセレナもまた、アリアには特別甘かった。
「セレナはどっちがいい? わたしとしてはお菓子の方が嬉しいんだけど……」
「別にお菓子くらいいつでもあげるわよ」
「やった! なにくれる?」
「厨房借りて一緒に作るわよ。アリアだけ貰ってるのは不平等じゃない?」
それもそうだと、頷くアリア。根は優しい天使のはずなのに、何故そこまで頭が回らないのか。それこそがアリアが落ちこぼれの烙印を押されてしまっている理由の一つなのだが、そんところまで愛おしいと感じてしまうのはセレナの欲目だろうか。お菓子でも悪戯でも好きにしたらいいと思う。アリアが自分の隣で笑っていることこそが、セレナにとっては一番大切なことだから。
二人で作ったマカロンはとても甘く、美味しかった。