2日 ネメシア(moc)

 

Novel

「いつまでその服着てるんだ?」
 もう秋なのに。我が家へと続く草原の道を、ノースリーブのワンピースで駆け回る妹を見つめシオンはそう呟いた。秋風を浴び無意識に両手を擦る兄のシオンに対し、妹のネメシアの健康的な二の腕は綺麗なまま。顔色だってネメシアは太陽のように明るく眩い。不健康そうだと揶揄される自分とは大違いだと、シオンはうなだれる。そんな兄の心情を察してはいないだろう、ネメシアは無邪気に笑いかけてくる。
「だってこの服とっても可愛いから! わたし、この服だいすき!」
「……そういうのは勝負服って言うらしいよ。ここぞという時に着るための服」
「ここぞって?」
「えっと……好きな人と出かける時、とか?」
 正直シオン自身もあまり理解していない。そもそも外へ出ることが苦手な少年なのだ。人とは違う自分が、相手のことを考えて、精一杯おめかしして、誰かと一緒に出かけるなんて……そんな夢物語のようなことを考えたこともない。シオンはとても臆病な少年なのだから。
 
 珍しく静かに考え込んでいたネメシアだが何か思いついたのか、シオンに花のような笑顔を向ける。
「わかった! じゃあお兄ちゃんの誕生日に着るね!」
 シオンはその言葉の意図を読み取れなかった。自分より一回り幼い妹の言葉は突拍子のないものが多く、シオンを困らせる。そんなところも可愛らしいと感じてしまうのは兄の欲目だろうか。
「お兄ちゃんもしょうぶふく買ってもらって、それで一緒にでかけるの!」
 それってきっととっても楽しいよね、お兄ちゃん! この子は本当に、なんと眩く綺麗な子なんだろう。季節外れの暖かな風がシオンの心を撫でた、ような気がした。
「……じゃあ、ネメシアが俺の勝負服を選んでよ。俺もネメシアに似合う冬服を選ぶからさ」
「なにそれとっても楽しそう!」
 兄妹は笑い合いながら帰路に着く。早く大好きな母と父に今日のことを話すのだと。母はネメシアと一緒に無邪気な子供のようにはしゃぐだろうか。父はシオンが臆せず外へ出かけることを喜んでくれるだろうか。
 二人の未来はきっと明るい。そう信じていた。