1日 現代パロ(Farbuer)
Novel
今日もまた帰りが遅くなってしまった。
街灯だけが道を照らしてくれるような時間。息子のアルバートはもう眠ってしまっただろう。私が今の会社に転勤してからというもの、休日以外はまともに会話も出来ないほど、残業続きの毎日だった。アルバートは中学生になって間も無いというのに……それも承知の上であることは確かだろう。なぜなら残業の主な理由は——可愛い姪と駆け落ちした男を未だ許すことが出来ない社長の恨みだからだ。
一度、課された仕事以上の成果を上げ黙らせようとしたら、次はその倍の量の仕事が来た。そんなことを繰り返している内に、定時で上がる社員たちをよそに、私だけが残業することとなってしまったのだ。ホワイト企業として世間に知られている弊社だが、実際は私怨から仕事を割り振るようなブラックだ。
辞めようにも全く非のない……それどころか私を助けてくれるような有能な部下たちを置いてはいけない。常人には到底不可能な仕事量をこなせているのは、二人の部下の助力が大きい。だから肉体にはさほど問題はないのだ。ただ精神が限界だった。
半ば無意識に帰宅していた私は「ただいま」と口だけを動かし、手探りでスイッチを押す。築四十年の手狭なアパートだ。室内の様子は一眼でわかる。明るくなった部屋を見渡せばテーブルに伏して眠っているアルバートの姿が目に入った。寝室にいると思っていたが、私を待っていてくれたのだろうか……嬉しさと心配を抱えながらアルバートの側へ寄る。するとテーブルの上には—すっかり冷めてしまっていたが—私の好物であるポトフも置かれていることに気付く。
……なるほど。だから今日はこんなところで眠っていたのか。思わず頬を緩めてしまう。仕方ないだろう。私の可愛い一人息子があまりにも健気なのだから。相変わらず言葉を交わすことはなかったが、それでも私の心は満たされていく。体もどこか軽くなった気分だ。軽くなった腕を伸ばし、アルバートの丸い頭を撫でる。「ありがとう」は彼が目覚めた時に言葉にしよう。